ケンケンラボ

現役病院薬剤師が身近な病気や感染症、薬、健康食品、日常生活の中で疑問に思った事や勉強した事の中で役立つ情報を発信していくブログです。

抗不安薬や睡眠薬について

目次

  1. 抗不安薬とは
  2. 睡眠薬
  3. 薬の致死量について
  4. まとめ

 

1.抗不安薬とは

ベンゾジアゼピン抗不安薬といいます。ベンゾジアゼピンは中枢神経の神経物質の働きを抑制する物質を増強し、結果として脳の活動がスローダウンします。

過度な不安や緊張が和らぎ穏やかになる薬です。

薬としてはデパスエチゾラム)、ソラナックスアルプラゾラム)、リーゼ(クロチアゼパム)、ワイパックスロラゼパム)、セルシンジアゼパム)、メイラックス(ロフラゼブ酸エチル)などが有名です。

薬に副作用として依存性が問題になっています。体が慣れ徐々に効果を感じにくくなることがありますが、増量していくと依存性がより増すとされています。抗不安薬は一時的に使用する薬剤とされ、長期にわたって使用する場合には抗うつ薬(SSRI)への切り替えが必要です。

 

 ・デパス

精神的な緊張のみではなく身体的な緊張感を取るのに優れている薬剤です。そのため肩こりにも効果があります。一方で薬を服用して数分で身体的な脱力感を感じることができるため依存しやすい薬とされていること、脱力に伴い転倒のリスクが増すことから、漫然と使用するべきではありません。

 

・リーゼ

 抗不安作用は弱く比較的安全であり、処方されることが多い薬剤です。

 

ソラナックスワイパックス

抗不安効果が強いです。持続時間は4時間くらいです。効果や作用時間などが丁度良く、よく処方される薬剤です。

 

メイラックス

非常に強い抗不安効果があります。しかも持続時間が長いため(約半日)、非常に強い眠気がきます。そのためソラナックスで効かないときに処方されます。

 

セルシン

注射剤、坐薬などがありけいれんを抑える薬としてもよく使用されます。また胃カメラをする際の鎮静剤として使用されていることも多い薬剤です。依存性も強いため内服薬として定期的に使用することは稀です。

 

2.睡眠薬

不眠症は非常に患者さんが多い疾患です。成人の30%が不眠症を有しているとされ、5%程度が常に処方を受けていると言われています。「何時になったら電気を消して眠らないといけない」といった思いが不眠を一番悪化させると言われており、認知行動療法といった生活習慣の改善や考え方の改善が基本になります。それでも改善しないなら睡眠薬を使用します。

昔の睡眠薬は依存性が強くまた高用量で死に至るため危険とされました。その時の主流とされた睡眠薬はバルビツール系と呼ばれるもので、現在では睡眠薬としては殆ど使用されていません。

その後危険性のないベンゾジアゼピン系(抗不安薬と同じ)や、さらに危険性のない非ベンゾジアゼピン睡眠薬というのが開発されました。現在使用されている薬は過量内服をしても死に至ることはないです。数百錠服用しないと致死量に至らないためその前に眠ってしまいます。

薬剤としてはマイスリーゾルピデム)、アモバン(ゾピクロン)、ルネスタエスゾピクロン)、レンドルミンブロチゾラム)、リスミー(リルマザホン)、ロヒプノールフルニトラゼパム)が有名です。

 

睡眠導入剤

マイスリーアモバン、ルネスタなどは超短時間型といわれ、2~3時間程度で効果が薄れます。いわゆる睡眠導入剤です。効果のある時間は半減期、つまり薬が半分に減量するのにかかる時間です。つまり、睡眠導入剤は効果を認めるのは(薬が半分以上体に残っている)2~3時間、そして体から完全に抜けるには6時間程度必要です。そのため睡眠導入剤を内服した場合、内服から6時間程度は頭があまり回っていない状態であると言えます。

 

〈短~中時間型睡眠薬

レンドルミンは短時間型で効果は6時間程度(体に残存するのは12時間程度)、サイレースは中時間型で効果12時間程度(体に残るのは24時間程度)です。サイレースはよく効きますが、体に薬が24時間程度残るため、常に薬が体内に残っている状態になります。

 

抗うつ薬

眠れないからと内服錠数を増やすことや、効果の長い薬に切り替えることは、常に睡眠薬が体に残存して頭を眠らせている状態になるので良くありません。

もしも睡眠薬の薬剤効果が悪い場合には薬を増量するのではなく、抗うつ薬SSRI)を追加した方が安全で効果も高いです。たとえばデジレルトラゾドン)、テトラミド(ミアンセリン)という眠気の強いSSRIリフレックス(ミルタザピン)は高齢者でも安全に睡眠を引き起こすことができるとされています。漫然と睡眠薬を飲むよりもこれらの薬剤の方が安全に効きます。

とくに睡眠障害の中で中途覚醒(夜中に目が覚めて数時間眠れなくなる)を認めている場合には、その背景に抑うつ状態が潜んでいますので睡眠薬の漫然処方はただ危険なだけです。そのため抗うつ薬SSRI)が主たる薬剤になります。

 

 ※新しい世代の睡眠薬

安全とされる睡眠薬が昨今発売になっています。ベルソムラ(スボレキサント)、ルネスタエスゾピクロン)、ロゼレム(ラメルテオン)などです。特にベルソムラやロゼレムは睡眠リズムを整える薬です。副作用が軽微であることがメリットですが、あまり効かないのですでに他の睡眠薬を服用している方を切り替えると眠れなくなることがあります。睡眠薬を飲んだことがない方、睡眠薬の副作用が怖いという方は試す価値があります。特に安全とされるロゼレムで睡眠状態が整うのであれば最も副作用なく長期に服用できます。ロゼレムは数週間かけて眠りの状態を整えていく薬なのでじっくり試す必要があります。

 

 3.薬の致死量について

現在使われている安定剤、睡眠薬の過量摂取により死に至ることはほとんどありません。ただしフルニトラゼパム(商品名:サイレース)は致死性が高いので注意が必要です。海外では依存性の強さや致死性からフルニトラゼパムは医薬品として認可を受けていない国がありますので持ち込む際にも注意が必要です。フルニトラゼパムを使用した昏睡強姦は以前から報告されており、2015年に犯罪抑止のために薬剤が着色されています(青色になります)。一部のジェネリックは着色されていないなどの問題がまだあります。フルニトラゼパムは先発品の製品名としてロヒプノールという薬剤が以前にはありましたが販売中止となりました。強い催眠効果や依存性・致死性も問題で、犯罪に使用されることもあります。

フルニトラゼパム以外の内科で一般に処方される薬の場合死に至ることはほとんどありません。死に至ることはありませんが長期間眠ってしまうことで大きな問題になります。睡眠薬の過量摂取により長期間寝返りを打たずに寝続けてしまい、その結果筋肉へ血流障害を生じてしまい、四肢切断や背中の筋肉が壊死してしまいます。現在の薬は安全性を重視されています。主流となっている睡眠薬マイスリーリスミーレンドルミンなど)は致死量150錠程度とされ、致死に至る前に睡眠に至り、結果として重度の障害を生みます。そのため安定剤、睡眠薬の過量摂取は避ける必要があります。

 

4.まとめ

 〈処方の実際〉

入眠障害睡眠導入剤マイスリーを処方しています。

 

肩こり&入眠障害→安定剤のデパスを処方しています。

 

入眠障害中途覚醒→レクサプロ(抗うつ薬)+マイスリーか、リフレックスを処方しています。リフレックスは非常に眠りが良くなりますが、内服開始数日が非常に眠くなるため、仕事の影響などを相談してどちらかを処方しています。

 

不安障害→レクサプロ(抗うつ薬)+安定剤(ソラナックス)の頓用を処方しています。安定剤のみで不安を取っていくと副作用が大きくなりますので、ベース薬として抗うつ薬を使用します。

 

〈処方上の注意〉

安定剤や睡眠薬は過剰摂取を防ぐ観点から30日制限の処方制限が入ります。長期処方はできません。また複数の医療機関から睡眠薬を貰う方がいます。最近は薬局でのチェックやレセプトチェックにより、複数の医療機関を受診して薬を多くもらっている場合には把握されます。睡眠薬抗不安薬の依存が社会問題になってきていますのでしっかり把握されます。