ケンケンラボ

現役病院薬剤師が身近な病気や感染症、薬、健康食品、日常生活の中で疑問に思った事や勉強した事の中で役立つ情報を発信していくブログです。

痛みのしくみと痛み止めの薬について

「痛みは記憶されるので我慢してはいけません」「そのためにはあらゆる手段で痛みを抑えることが必要です」「痛み止めの薬はけっしてその場しのぎではありません」

 

目次

  1. 痛みを感じるしくみ(急性の痛みの場合)
  2. 痛みを感じるしくみ(慢性の痛みの場合)
  3. 痛みを和らげるしくみ
  4. 「痛み止めの薬」はなぜ効くのでしょう?

 

1.痛みを感じるしくみ(急性の痛みの場合)

 切ったり、ぶつけたり、熱いものを触ったり、血行が悪くなったりしたときには、各種受容体(センサー)がその刺激を電気信号に変換して「痛みを伝える神経」が興奮します。また傷ついた組織から色々な物質がつくられて(プロスタグランジンなど)それらの物質もほかの受容体を介して「痛みを伝える神経」を興奮させます。

「痛みを伝える神経」は信号を脊髄(背骨の中の神経)に送ります。脊髄では電気信号を化学物質(神経伝達物質)に変えて次の神経にバトンタッチします。この場所をシナプスといいます。次の神経はそれをまた電気信号へ変えて、色々なところを通って脳の色々な場所に信号を送り、痛みとして感じるようになります。

 

2.痛みを感じるしくみ(慢性の痛みの場合)

組織が障害されると痛みを感じるのはわかりますが長く痛むのはなぜでしょう?

 

中枢性感作

シナプスでの痛み信号伝達が強くなった状態です。スポーツなど繰り返し練習すると上手くなるように、神経を刺激し続けるとその信号を伝達しやすくなります。

a.シナプスが敏感になってしまっている。

痛みが続くと神経伝達物質が放出されやすくなります。

→少しの刺激で痛い

b.シナプスに痛み専用のセンサー(NMDA受容体)ができてしまう。

色々な信号を痛みとして感じるセンサーができてしまう。

→触っても痛い。

 痛みを脊髄神経が覚えてしまう。

通常の記憶は脳の海馬という場所へ情報刺激が繰り返されることで、神経伝達の増強が長時間起きるようになることでおこります。長期増強現象といいます。

痛みの刺激が繰り返されると脊髄に長期増強現象がおきます。すなわち痛みの記憶が脊髄にできてしまうのです。

→いつまでたっても痛い。

筋肉の「コリ」の悪循環

筋肉に痛みの原因が発生すると脊髄への神経反射で筋肉が緊張します。筋肉の緊張が高まるとこれにより痛みの原因物質ができて、神経反射でさらに筋肉の緊張が高まってしまいます。この悪循環が続くと最初にあった痛みの原因が治っても筋肉の緊張が続くことになります。

→いつも肩が凝っている。

 

3.痛みを和らげるしくみ

痛みをずっと感じていると痛みから逃げたりするのに支障が出るので、体には痛みを和らげるしくみがあります。

 

下降性抑制系システム

痛みはシナプスを介して調節されています。脳から痛みを抑えようとする信号が出ると信号は神経をとおってシナプスにいきます。そこでセロトニンノルアドレナリンなどの痛みのつたわりを抑える神経伝達物質が出て痛みを和らげるのです。

内因性オピオイド(体内麻薬)

体中に麻薬のモルヒネのような化学物質(オピオイド)で興奮する神経があります。強い痛みやストレスを感じると脳から様々なオピオイドが作られてさまざまな場所で痛みを抑えます。

ゲートコントロール

脊髄には痛みの門番(SG細胞)がいて通常時は痛みの門を閉めています。「痛みを伝える神経」が興奮すると門番は門を開けます。その時「触った事を伝える神経」が興奮すると門を閉じて痛みを和らげます。

痛いところをさすると痛みが和らぐのは気のせいではなくこのためだと考えられています。

 

4.痛み止めの薬はなぜ効くのでしょう?

 ロキソニン、セレコックス、ボルタレンなど:NSAIDs(非ステロイド消炎鎮痛薬)

いわゆる「痛み止め」としてよく処方されます。炎症を起こす化学物質を増強させるプロスタグランジンという物質の産生を抑えることで炎症を鎮めます。その結果として鎮痛効果を発揮します。したがって炎症の無い痛みにはあまり効きません。「最初は効いたけどだんだん効かなくなちゃった」は炎症が落ち着いたからです。

プロスタグランジンは炎症時以外に、常時胃腸や腎臓の血流をよくしたりする作用のものが存在します。ロキソニンなどでそれらを抑えてしまうので胃腸や腎臓が障害されるのです。逆に言うとこの薬以外の痛み止めでは「胃が痛くなる」ことはあまりありません。

 

プレド二ゾロンなど:ステロイド(副腎皮質ホルモン薬)

プロスタグランジンを作る前段階でブロックすることで炎症を抑えます。

炎症以外のプロスタグランジンには作用しないので基本的に胃腸障害は起こりません。

 

ノルスパンテープ、トラマール、トラムセットなど:オピオイド

脳神経系の様々な部位にあるオピオイド受容体(センサー)に作用する薬です。トラマールは体で分解されてオピオイド作用が起こります。神経伝達物質を減らす作用があります。オピオイド受容体には色々種類があり、痛み担当神経に作用すると痛み止めになります。腸の運動担当に作用すると便秘になり、ドパミン担当では多幸感が発生します。これにより依存性が懸念されますが、痛みを感じている人は不快感を発生させるダイノルフェンが増えることでドパミンが枯渇します。オピオイドドパミンが増えても多幸感が発生しないため依存は起こりません。

 

リリカなど:カルシウムチャンネル阻害薬(α2δリガンド)

神経が伝達する時、神経にカルシウムイオンが入って電気信号が伝わります。痛み刺激が持続する「異常な痛み」になるとα2δサブユニットがカルシウムを通りやすくさせます。これを抑えることで「異常な痛み」を改善させるので正常の痛みは変えません。神経が切れた時のような持続性の「異常な痛み」に効くため神経障害性疼痛の第1選択薬になっています。

 

サインバルタなど:選択的セロトニンノルアドレナリン再吸収阻害薬

セロトニンノルアドレナリンも下降性抑制系に作用し神経伝達部でこれらの量を増やす薬です。これも神経障害性疼痛の第1選択薬になっています。前述のトラマールも代謝される前は下降性抑制系に作用する薬です。サインバルタと併用する際はセロトニンが増えるので注意が必要です。

うつ病の薬も下降性抑制系に作用し有効ですが日本では痛みの適応症となっていません。

 

その他:カロナールアセトアミノフェン)、ノイロトロピン

カロナールはこどもの解熱薬でよく使う薬ですが、炎症を抑える効果はほとんど無く、解熱・鎮痛とも脳に作用し効果を発揮すると考えられています。欧米では変形性関節症の第1選択薬になっています。

ノイロトロピンは脳幹の下降性抑制系に作用するといわれています。

どちらも比較的副作用の少ない薬で、ある程度量を多く服用しないと効果は少ない傾向です。

 

漢方薬

こむら返り(足のつり・痙攣)に効く芍薬甘草湯や打撲に効く打打撲一方などは体質にかかわらずよく効きます。

漢方薬はコムレケア(芍薬甘草湯)、ナイシトール(防風通聖散)、コッコアポL(防己黄耆湯など)、カコナール(葛根湯)など多く商品化されており、ドラッグストアで簡単に手に入ります。医者から処方される方「医療用漢方薬」ではそれらと比較して有効成分が多く、健康保険も適応されるためご希望の方は主治医に相談するとよいでしょう。