ワクチンとはどんなもの?しくみから種類、役割についてわかりやすく説明します。
目次
- ワクチンのしくみ
- ワクチンの種類
- ワクチンにはどんな役割があるの?
- 子どもの免疫とワクチン
1.ワクチンのしくみ
自然感染よりはるかに安全に免疫をつくります
子どもが麻しん(はしか)に自然にかかって治ると「※この子はもう麻しんにはかからない」と言われますね。これは子どもの体内に麻しんに対する免疫ができるからです。
ワクチンはこうした自然感染と同じしくみで私たちの体内に免疫を作り出します。ただし自然感染のように実際にその病気を発症させるわけではありません。コントロールされた安全な状態で免疫を作り出します。ですから接種後に症状が出ず、たとえ症状が出ても大変軽いのが特徴です。他の人へうつさせない点もワクチンの利点です。
しかし自然感染にくらべて生み出される免疫力は弱いため、1回の接種では充分でなく何回かに分けての追加接種が必要になることがあります。
※ただし麻しんなどに自然にかかっても終生免疫(一度感染すると生涯その病気にかかることがない)ができるのではないことがわかってきました。
自然感染の場合
重症化する危険性 高い
他人に感染 感染しやすい
作られる免疫 強い
ワクチンの場合
重症化する危険性 ほとんどない
他人に感染 しない
作られる免疫 少しだけ弱い
2.ワクチンの種類
ワクチンには次の3種類があります。
生ワクチン
生きたウイルスや細菌の病原性(毒性)を症状がないように極力抑えて、免疫が作れるぎりぎりまで弱めた製剤。自然感染と同じ流れで免疫ができるので、1回の接種でも十分な免疫を作ることができます。ただ自然感染より免疫力が弱いので、5~10年後に追加接種したほうがよいものもあります。ワクチンの種類によっては2~3回の接種が必要なものもあります。副反応としてはもともとの病気のごく軽い症状がでることがあります。
ロタウイルス感染症、結核、麻しん(はしか)、風しん、おたふくかぜ、水痘(みずぼうそう)、黄熱病など
不活化ワクチン
ウイルスや細菌の病原性(毒性)を完全になくして免疫を作るのに必要な成分だけを製剤にしたものです。接種してもその病気になることはありませんが、1回の接種では免疫が十分にはできません。ワクチンによって決められた回数の接種が必要です。
B型肝炎・ヒブ感染症・小児の肺炎球菌感染症・百日咳・ポリオ・日本脳炎・インフルエンザ・A型肝炎・髄膜炎菌感染症、狂犬病など
トキソイド
細菌の出す毒素の毒性をなくし、免疫を作る働きだけにしたものがトキソイドです。
3.ワクチンにはどんな役割があるの?
ワクチンを接種する大切な目的として次の3つをあげることができます。
1.自分がかからないために
2.もしかかっても症状が軽くてすむために
3.まわりの人にうつさないために
1.と2.はワクチン接種を受ける本人のための目的です。ワクチンが「個人防衛」と呼ばれる理由です。3.は自分のまわりの大切な人たちを守るという目的です。ワクチンの「社会防衛」と呼ばれる一面です。
1人はみんなのために、みんなは1人のために
ワクチンを接種できる人たちがきちんとワクチンを受けることにより、地域社会でVPD(ワクチンで防げる病気)の流行を防ぐことができます。VPDが流行しなければ免疫力の弱い人たち(ワクチンを受ける年齢になっていない赤ちゃん、おなかに赤ちゃんのいる妊婦さん、病気のためにワクチンを受けたくても受けられない人、体力の低下した高齢者、ワクチンは受けたけど実際には免疫が十分についていない人など)もVPDから守れます。ワクチンの接種は自分のため、そしてみんなのためだということを忘れないでください。
現代社会で高まる予防の大切さ、子どももおとなも感染しやすい環境に
最近は赤ちゃんや小さな子ども同伴のレジャー、ショッピング、外食などが日常的になりました。また働く女性が増え保育園などで集団生活を送る子どもも増えています。このように子どもが人の多く集まる場所に長時間いることが多くなるとそれだけ感染症にかかる機会が増加します。
子どもだけではありません。2007年に全国の大学で起こった麻しん(はしか)の集団発生のように、若者のVPD流行もあります。どうしてこのような流行が起こるのでしょうか。ある程度までワクチン接種がすすむとVPDの流行が抑えられてきます。すると患者との接触機会が少なくなり、結果的にワクチンでいったん獲得した免疫が弱まりやすくなるのです。またワクチンを接種していなくてもかからないまま成人になる人も増えてきます。このようなことから成人でもVPDの流行が起こると考えられています。
乳幼児はもちろん成人もみんなが適切にワクチンを接種して必要な免疫をつけておくことがとても大切なのです。
薬剤耐性菌のために治療が困難になるケースが増えています
抗生物質乱用などによって抗菌薬が効かない菌(耐性菌)の増加が問題になっています。特に子どもの細菌性髄膜炎を引き起こすヒブや肺炎球菌では耐性菌は深刻な問題です。抗菌薬の効果が不十分だと治療をしても死亡したり後遺症を残したりするからです。残念ながら日本ではこれらの重い感染症を予防するためのワクチンの導入が世界的に見ても大変遅れています。
ワクチンは感染症そのものを防ぐだけではありません。抗菌薬の適正な使用を図り耐性菌の増加を防ぐためにもとても重要な意味を持っているのです。
4.子どもの免疫とワクチン
子どもの感染症は予防が第一です
乳幼児期には免疫が未発達なためさまざまな感染症にかかります。そして感染していくことで免疫をつけながら成長していくのです。しかし子どもがかかりやすい感染症はかぜのように軽いものだけではありません。中には確実な治療法が無くて深刻な合併症や後遺症を起こしたり、命を落としたりする危険がある病気もあります。そうした感染症は予防することが大切です。
ワクチンこそもっとも安全な予防方法
感染症を予防するのに安全で確実性の高い方法がワクチンの接種です。ワクチンは病気を防ぐために必要な免疫を安全につける方法です。ワクチンを接種することで子どもたちを病気から守ることができます。
しかしすべての感染症に対してワクチンが作れるわけではありません。ワクチンで防げる病気(VPD)はごく一部にすぎません。ワクチンを開発するのはとても難しいことで、困難を乗り越えてまでワクチンが作られたのはそれが重大な病気だからです。VPDはいったん発病すると現在の医学でも根本的な治療法はないか治療がとても難しいのです。
せっかくワクチンというすぐれた予防法があるのに使わないのはとてももったいないことですね。大切なわが子を守るためにもワクチンのメリットを最大限にいかしましょう。
子どものかかりやすい主な感染症~VPDとVPDでないもの~
・手足口病
・伝染性紅斑(りんご病)
・とびひ
・尿路感染症
・麻しん(はしか)
・ポリオ
・百日せき
・おたふくかぜ
・インフルエンザ
・B型肝炎
・ヒブ感染症
・風しん
・結核
・破傷風
・日本脳炎
・みずぼうそう
・小児の肺炎球菌感染症
・A型肝炎
発展途上にある子どもの免疫を助けるために
生まれたての赤ちゃんはへその緒を通じてお母さんから免疫をもらいます。このお母さんからもらう病気の抗体は生後6か月くらいまでにはなくなるので、その頃からかぜによくかかるようになります。
こういう話を聞くと生まれてすぐは大変免疫力が強いと考えてしまいそうですが実は逆。確かにお母さんからもらった抗体が大変役に立つ病気もあります。しかし免疫というのは抗体(免疫グロブリン)だけではなくて、他の免疫成分(細菌を食べる好中球、免疫を作ることなどに関係するリンパ球、補体など)もとても重要です。
これらを含めて総合的な免疫力を比較すると、生まれてすぐが一番弱く、6か月過ぎになると少し強くなってきますが、2歳くらいまではまだ弱いのです。6歳頃になるとかなり大人に近づきます。また病気にかかるかどうかは感染症との接触の機会が多いかどうかも関係します。そのためたとえば肺炎球菌やヒブなどの菌が簡単に子どもの免疫システムを通り抜けて細菌性髄膜炎や敗血症など重大な病気を起こしやすいのです。麻しんや百日せきなども年齢が低いと重症になりやすい病気です。
こうした病気を防ぐ助けになるのがワクチンです。